ベンダー RYOURAN

息づくストローク

説明

「まぁ…なんて素敵な色」

母の声が、朝の静けさにやわらかく響いた。
キッチンのテーブルに広げられた布を見て、自然に出たひと言だった。
赤、オレンジ、グリーン、ヴァイオレット。
まるで感情のひだをそのまま描いたような、豊かで即興的なストローク。
力強いのに、どこかやさしさがある。美帆(みほ)は少しだけ照れながら、笑った。

「昨日、骨董市で見つけたの。見た瞬間、呼ばれた感じがして」

「わかるわ。その布、すごく“生きてる”。色も動きも、何か語りかけてくるみたい」

母の指が、布の上をゆっくりなぞる。まるで絵本のように、その色たちを読み解くように。

「この赤、すごく情熱的だけど、どこか揺らぎがあって…」

「うん。完璧じゃないところが、好き」

「完璧じゃないからこそ、人の心に届くのよね」

娘が独立して家を出てから数年。
今は自分の時間を取り戻したようでいて、どこか所在なく感じる日々。
そんな中でふと実家に帰り、こうして母と朝の光の中で布を囲んでいる時間が、思いがけず心に沁みていた。

「昔のあなた、こういう色を好んでた。大胆で、どこか即興的で、でも芯があって」

「そうだっけ? 自分では気づいてなかったな」

「気づいてなかったかもしれないけど、あなたの描く絵も、選ぶ服も、どこか“感情を動かす”色だったわ」

その言葉に、美帆は少し黙った。
感情を動かす。
いつの間にか、そういうものから少し距離を取っていたかもしれない。
家庭のこと、仕事のこと、母としての役割。
日々の中で、「感じること」よりも「こなすこと」に追われていた。

「ねえ」
布を見つめたまま、美帆が静かに口を開いた。

「この色たち・・・なんだか胸の奥を揺さぶられるの。忘れてた感情とか、しまい込んでたものが、少しずつ動き出す感じ」
母はにっこりと笑った。

「ずっとあなたの中にあったものなんだと思うわ。色褪せずに、ちゃんと残ってる」
そのあと、美帆はそっと布をたたみ、膝の上に置いた。
両手でなでるように整えながら、ふとつぶやいた。

「これ…どんな形にしようかな。広げて眺めてるだけでも気持ちが明るくなるけど、ちゃんと使えたら、もっといいのかもしれないね」
それは、言葉にしすぎない小さなサインだった。
母はうなずきながら、それ以上は何も言わなかった。

翌朝。
テーブルの上に、丁寧に仕立てられたトートバッグが置かれていた。
昨日の布だった。
仕立ての糸は、控えめに、でもしっかりと。
タグの裏には、白い糸でこう刺繍されていた。

「あなたの色で、また歩き出せますように」

美帆はそのバッグをそっと手に取り、肩にかけた。
鏡に映る自分は、昨日より少しだけ輪郭がはっきりして見えた。
赤も、オレンジも、緑も、ヴァイオレットも、確かに自分の中にあった色だ。
玄関先で、母が声をかける。

「そのバッグ、あなたによく似合ってるわ」

「ありがと。自分の色、ちょっとずつ思い出してる気がする」

「色は混ざっても、消えないのよ。重なるたびに、深くなるの」

空は晴れていた。
陽に照らされたバッグの色が、まるで息をしているかのように揺れていた。
美帆は歩き出す。
今日という日に、ひとつ、新しい色を重ねながら。

通常価格 ¥10,000 販売価格 ¥10,000
税込み。 
Size XS
在庫あり: 9999

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描く、という対話から始まる物語
RYOURANの模様は、すべて手描きで生まれます。
紙の上に筆を走らせる時間は、自然や記憶、心の中の風景と静かに向き合う時間。
こうして生まれた色と柄は、誰かの毎日にそっと寄り添い、心をあたためる存在になっていきます。
手で描くこと。それは人と布をつなぐ、静かな対話です。


模様に宿る文化を、暮らしの中へ
色や柄には、その土地の空気や人々の暮らしが織り込まれています。
RYOURANはテキスタイルを通して、顔の見える物語を届けたいと考えています。
ただの“商品”ではなく、誰かの感性や文化とつながる一着。
それを知ったとき、着ること、持つことへの意識が少しずつ変わり始めます。

やさしく、永く、大切にまとう
衣類を丁寧に扱うことは、地球へのやさしさでもあります。
必要なときだけ洗い、手入れをしながら長く着ること。
それは、水やエネルギーの消費を抑え、自然環境を守る小さな選択です。
服と向き合う時間が増えるほどに、暮らしもまた美しく整っていきます。